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【公金無駄遣い?】琉球泡盛海外輸出プロジェクトを監視せよ(1)

愛する泡盛が未来永劫飲み続けられるように

琉球泡盛は沖縄の宝であり、象徴でもある。戦火によって一度失われた泡盛酒造の復興は、人々の情熱がにじむ美しい物語である。現在、産業として右肩下がりで危機感がありながらも、振興に対する施策が充実していることや地域での消費が支えていることから、ほどほどに安定している。

2018年の4月に宮腰首相補佐官(当時)の肝入りで「琉球泡盛海外輸出プロジェクト」が発足した。官民挙げてのプロジェクトであり、泡盛振興に国が乗り出すということで大きい期待感があったようだ。もうすぐ2年たつが、今どうなっているのだろうか。

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同組合は、12月までには42・3キロリットルになると推計するが、プロジェクトが目標値とする「20年までに70キロリットル達成」は厳しい見通しだ。 

 実際の報告をみると2017年が28.8kl、プロジェクト発足年の2018年が30.6kl、そして2019年が42.3kl(推定)となっているようだ。2019年は前年度比38%程度の増加が見込まれるが、2020年の70kl目標への到達に対しては課題が大きいようだ。

そもそもその目標大丈夫?

2020年の海外出荷目標が70キロリットルということだが、この数字ってどういう数字だろうか。まず、2018年の年間泡盛総出荷量は16,829キロリットル。70キロリットルという数字は年間総出荷量の0.42%となる。少な!大きい酒造所だったら、10キロリットルくらい1回で作っちゃうよねぇ。30→70キロリットルって業界にとって経済的な意味あるの?

一方で、総出荷量16,829キロリットルのうち16.6%が県外出荷である。これは15年前には22.6%だったものだ。全体の出荷量が落ちているのは酒業界全体の傾向としてあるにしろ、県外出荷の割合がピークから減っていることに対してこれを伸びしろと捉えないのはなぜだろう。海外に0コンマ数%出荷量を増やすことよりも国内市場で数%増の目標の方が泡盛業界にとっては大事ではないか。

中長期的視点での海外進出戦略になっているか?

官民一体でのプロジェクトなので、短期的な経済的効果を狙うものではないということだろうか。泡盛を文化ごと海外に紹介して浸透を目指す、と。プロジェクトの行動計画を読むと、情報発信(SNSやイベント)やブランド化が重要視されており、販路の拡大のために必要なディストリビューターとの連携など具体的な計画については薄っぺらい。「まずは知ってもらうことが大事」なのかもしれないが、泡盛は一回これで失敗していることを忘れているのだろうか。

2001年に放送を開始したドラマ「ちゅらさん」は、国民的な人気を博して沖縄ブームをけん引した。泡盛も2000年代前半に県外出荷のピークを迎え、沖縄県内の酒造所は過剰な設備投資をおこなった。沖縄振興開発金融公庫レポートを読めば、一過的なブームを巻き起こしたメディア露出は中長期的に産業を疲弊させる、単なるドーピングに過ぎなかったことがわかる。多くの人が泡盛に触れたが、ブームを過ぎての定着は見られなかった。この事実についてどのような解釈がなされた結果、今のような情報発信偏重な事業が成立しうるのか、全く理解できない。

酒が海外進出するとはどういうことか

言うまでもなく、酒は歴史や食をふくめた文化と切り離せない。その土地にはその土地の文化に根付く食事と酒があるのが普通である。近所の小売店に外国のごく一部の島で作られている酒が入ってきたとして、どのような扱いを受けるか想像に難くない。

常陸野ネストビール」(木内酒造)は海外でも爆売れしているクラフトビールだ。木内社長の話を聞いたことがあるが、耳が痛かった。

日本で人気のない酒は海外でも売れない。

外人が売る酒なんて買わないよ。現地の人が現地の人に売るんだよ。

 コエドブルワリーも、現地資本の代理店と直接契約することで販路拡大に成功したようだ。酒類のグローバルスタンダートと言って差し支えないビールであって、この状況である。泡盛はどうすんのよ、本当に。

diamond.jp

よりハードな路線へ

かえりみて琉球泡盛海外輸出プロジェクトである。年間1億円近い国費が投入されても、ささいな目標到達には厳しいという現在の体たらく。レポート類を読んでもレベルの低さに顎が外れて治らない。イベントやってみましたー人来てよかったですーってのは、学園祭のレポートか何かかな?

泡盛の海外進出を中長期的に考えるというテーマであれば、私ならば、海外での泡盛醸造所設立を目指すかな。10人程度、タイや台湾から若い人を集めて酒造所で修行させる。帰国後もサポートを行い醸造所設立までこぎつける。地元の人に愛される泡盛が出来たら、本場の味を知りたい人が増えてくるでしょう。それは「まっさん」たちがウィスキーで、日本で行ったことと同じこと。酒に対する価値観を変えるには、文化形成に関わるつもりでハードにやらないと。

少なくとも、SNSでー、インフルエンサーがー、イベントで琉球空手とのコラボでー、海外から有名人を招いてーなんてさ、国のプロジェクトでやることじゃねぇんだよ。

貴様、腹を切る準備はできているか?

これからもきちんと経緯を追っていきましょう。血税を無駄にする人間は地獄の業火に投げ込む者である